[2011年度前期] 課題文「共同体を生成する建築ーTokyo Urban Ring 2050」
設計助手:遠山之寛
2011年春の北山スタジオでは、東京で震災があった場合もっとも危険であるとされている木造密集市街地整備地区のなかに敷地を設定し、「一家族一住宅」によって規定される住宅というビルディングタイプを乗り越える「共同体を生成する建築」というビルディングタイプを発見するという課題とします。
東京の中心部は21世紀に入って複数の巨大再開発が行われ都市風景は大きく変容しました。そして中心部では現在も継続して活発な都市の更新が行われています。東京という都市は世界のなかで都市間競争を行っていますから、その都市機能は資本主義の原理に対応して効率良く作動しなければならないのです。都市の中心部から郊外に向けてシームレスに連なる住宅地はそれとは異なる原理で更新が� �んでいます。それは社会様態の変化に伴い変化が起きているのです。
東京の中心部の周縁は直径10〜15kmの円環状に広がる高密な住宅地となっています。その中にある木造密集市街地整備地区は2,200haの広大な地域です。もともとは東京のグリーンベルトとして円環状の計画されていた土地が、道路整備されないまま乱開発されて木造2階建ての低層の住宅で埋め尽くされています。この密実に見える住宅地は建蔽率が設けられているために、小さな敷地であっても周囲にニワとは呼べない空地が残され、そこに庭木が植えられ、関東南部の気候帯に適合した住環境を形成しています。
この木造密集市街地のなかに計画地を設定するのですが、そこには、河川を暗渠にした線形空地、また線形に残る崖線緑地があり、それが地区公園� �ような役割を果たしています。ます。またこのような木造密集市街地は既存の商店街が元気です。この地域にはコミュニティを束ねる線形空地や線形緑地や商店街が「紐(ヒモ)のような形状」をして存在しています。まずはこの「紐(ヒモ)のような形状」を調査し、それをコミュニティコアとするような計画を考えています。
経済の外部性は何ですか?
今回の東日本大震災のニュースを見ていますと、被災された方には老人が多いことに気づきます。地方都市は高齢化が急速に進行していることが良くわかります。そのなかで千鶏という孤立した集落の避難所の様子をリポートしていました。なかには家族を亡くされた方もいると思いますが、100人弱の人々が助け合いながら大きな家族のように生活していました。もともとが小さな集落なので共同体がまだ残っていたのだと思います。この様子を見ていますと、小さな住宅に老人夫婦だけであるとか、少人数で生活していた住形式こそが間違いで、このような共同生活の方が実は正しいあり方であったのかもしれないと思いました。95年の阪神大震災の時は、都市部の� ��災者が大きな体育館の中で多数でいながら孤立化する問題が顕在化していました。自発的な共同の行動様式が生まれないために、避難所ではルール作りが重要であると報告されていました。都市部では共同体はすでに崩壊しています。
これまでは横浜市域をプロジェクトサイトとしていたのですが、計画地を東京としたのは、今年7月中旬と9月末に東京の木造密集市街地を対象とする展覧会を二つ企画していて、この展覧会に参画してもらおうと考えているのです。7月中旬からスタートするオペラシティ・アートギャラリーでの「家族がかわり、住宅がかわり、都市がかわる(Tokyo Metabolizing)」展と、9月末のUIA東京大会に併せて行われる東京ワンダーサイト主催の「Visions for the Metropolis」展です。(Tokyo Metabolizing)展は昨年、ヴェネチアビエンナーレ国際建築展日本館の帰国展です。Visions for the Metropolis展は首都圏の12大学が出展予定している展覧会です。
スタジオは4つのステージを設けて進行します。ステージ1,2の内容は上記の展覧会で東京の都市状況を展示しようと考えているので、その内容を作ることを求めます。この都市状況の展示に関しては東工大の塚本研究室、筑波大の貝島研究室と協働する予定です。またスタジオの最終講評は6月28日としますが、その後7月14日までオペラシティの展示の現場設営に入っていただく予定です。
スケジュール
1)Reading, Mapping、リサーチ
2)Effectiv Pointの抽出
3)Intervention都市介入
4)建築提案
の4つのステージで進行する。
1970年にC.Alexanderが「A HUMAN CITY」というポスター集のようなものを大阪万博で展示しました。人間のための都市をつくる処方箋のようなものです。このポスター集のようなものがパターンランゲージのサブセットだったということが後でわかりました。今回はこのC.Alexanderの「A HUMAN CITY」を本歌として、以下のような標語を検討しています。
1. [つながる路面電車(LRTネットワーク)]
銀行reconcilliationは何ですか?
東京の鉄道網は円環の山手線から放射状に私鉄各線が郊外に延びています。そのため中心に向かうのには便利ですが、この私鉄各線を繋ぐルートがありません。木造密集市街地の円環状の地域の中に残る東急世田谷線と都電荒川線を延伸させて、環状の路面電車を設けることにします。この路面電車は放射状の私鉄各線の駅を結びます。
2. [いろんなものが身近にあること(ハイパーミックス)]
モビリティを下げたコンパクトな生活では働き方が変わります。生活の場と働く場が近接し、その周囲に生活をサポートする施設が必要となります。
3. [快適な戸外空間がある]
外部空間または半戸外空間は所有のあいまいな空間です。このような空間が身近にあることで空間の共有や作業の共同が誘導されます。共同体意識を生む快適な戸外空間は重要な都市要素です。
4. [弱者を抱え込むこと]
コンパクトに生活をし、共同体が再生されると高齢者や子供たち身体の弱い人たちも生活を共にできるようになります。
5. [自動車の無い歩行者圏]
木造密集市街地内は緊急車両、サービス車両以外の自動車の侵入を禁止します。
6. [カーシェアリング]
幹線道路沿いにカーシェリング用のステーションを設けます。
7. [レンタサイクルのネットワーク]
を(路面電車の駅毎に)設けます。レンタサイクルのベースと自転車専用道のネットワークです。
8. [パーソナルビークル]
(セグウェイのような)のレンタルステーションが開発されていることにします。そのステーションは路面電車と私鉄を結ぶ駅毎に設けます。
9. [公共サービルステーション]
徒歩圏(半径80m)毎に公共サービスステーションを設けます。行政窓口サービス、生協の移動販売車両、入浴介護車両、定期健診車両等々が定期的に設営され、高齢者のデイケアや託児所にもなる小規模多機能空間です。
10. [エネルギーのスマートグリッド]
小さな地域発電所(コジェネステーション)を直径1km毎に設けます。電線や電信柱の必要の無いエネルギーのスマートグリッドが実現されていることにします。
11. [中規模マーケット]
コンビニという売れるものしか置いてない商店ではなく、売り手と買い手が対面し自分で商品を選べるくらいの規模のマーケットが必要です。
12. [分譲高層マンションがダメなわけ]
などなど・・・・・
このポスターの標語を導き出すインデックスとして、以下のような項目のファクトデータを集めたいと思います。昨年のヴェネチアビエンナーレのレム・コールハースのPreservationという展示がとても格好良かったので、そんなイメージなのですが。
1)東京、パリ、ロンドン、NY、北京の地主の数。
2)土地の面積(ロット)
3)公園面積と樹木数
4)グロスの空地率
5)ボイドスペースの広さや質を示すインデックス
6)微気候のインデックス(0℃以下の日数、37℃以上の日数)
国際的な人材の課題は何ですか
7)インフラのインデックス:放射状の通勤電車(東京、ロンドン、パリ、NY、シカゴ)
8)インフラのインデックス:到達時間マップ
9)インフラのインデックス:発電所の規模、ローカルシステム
10)インフラのインデックス:再生エネルギー率
11)家族数
12)世帯人数
13)借家と持家
14)自営業とサラリーマン
15)パーソントリップ
16)ボロノイ図
17)公共空間マップ(ノッリ図?)
などなど・・・・
計画対象地は東京都都市整備局が指定する東京都木造密集地域整備事業対象地区です。面白いことにこの整備事業対象地区は東京都の中でリング状の絵を描きます。おそらく関東大震災後の都市拡張期間� �行われた乱開発地区ではないかと想定するのですが、こうして東京という都市を俯瞰してみると、この都市の中心は天皇という一家族が専用使用する広大な森林、その周囲に古くから開発された(または屋敷町として整備された)良好な都市組織をもつエリア(用途はオフィス、商業、高級な住宅地など)がリング状に存在し、その外に木造密集市街地(用途は完全な住居専用)がリング状に取り巻いている。おそらくここまでが戦前の東京の圏域ではないかと想像する。このリングより外のエリアは戦後の高度成長期にスプロールした住宅地で、カーペットのように均質な住宅地が広がっており最後は混在農地となって都市域が消滅する。
2050年という設定
東京は180万という地主に区分所有されています。敷地内の建物は� �有者のライフサイクルに合わせて建替え増改築が行われるため、建物の平均寿命は26年しかありません。東京という都市は大きな構造は維持したまま猛烈な勢いで生成変化を行っています。(Tokyo Metabolizingを読んでください)
2050年という設定は、人間の生命スパンを越えないが社会状況の大きな変化は想定できるという時間です。そこでは都市を理念的に捉えることが要求されています。国全体の人口が縮減するなかで、持続可能な社会をどのように設計するのかその回答を求められています。人間の移動、モビリティのむやみな拡大は抑制され、選択肢の多い交通手段が用意されます。都市内は機能の混在が進み、働きながら住まうというライフスタイルがあたりまえとなります。近隣には小規模な公園やギャラリーなどの公共施設があり、カフェやレストラン、マーケットなどの商業施設、クリニックやスポーツジムなどの生活をサポートする施設が混在して存在します。歩いていける生活の圏域にはや快適な空間が様々な� �で遍在し、そこで人々は滞留します。そして、この街では人とので出会いが多くなります。
木造密集市街地
この東京都木造密集地域整備事業対象地区を、いくつかの操作(モビリティ、エネルギーなど)を行いながら都市の環境単位としての可能性を検証します。たとえば車を排除することによって道路をコモンの領域に参入させること、土地の所有概念を変更させること、共同建替えによってグレインを変更させること、外部空間に対する新しい設計理念、など。変換のインセンティブを与えるマネージメントにも言及します。心地よい戸外生活が営まれる豊かな外部空間を持つ新しい生活ユニットが構想できます。そして、当然のことながら、この都市ではエネルギーの使用レベルを圧倒的に下げるインフラを構想しなければなりません。
東京都で最も問題であるとされるリング状の木造密 集市街地を、最も魅力的な新しい環境単位(COMMUNITY SMART GRID)に変換すること。そして、「共同体を生成する建築」というビルディングタイプを開発することがスタジオの課題です。
住宅特集4月号に、「住宅は都市に溶解する」という文章を書きました。そこで住宅というビルディングタイプはもう賞味期限切れであるとしました。その背景には住宅とは家族という入れ物の容器であったのだが、その入れ物である家族がかわってしまった。または家族という概念が変容しているということです。しかしながら、人は社会生活をおこなうとき家族という中間集団をはぎ取られてしまうと、社会の中で孤立し弱い立場に追い込まれてしまいます。そのため現代の都市社会の中で、人は家族に代わる中間集団を必要としているのです。
住宅特集の文章では、その中間集団に対応するビルディ ングタイプが開発されなくてはならないという主張をしました。私たちの社会は共同体をどのように構築するのかということこそが重要なテーマであると考えているのです。
「Tokyo Metabolizing」主旨文より
世界の巨大都市のひとつである東京は、小さな土地に細分され約180万という所有者に分割されている。それぞれの土地には建築規制がかけれているが、そのルールさえ守れば土地の所有者には自由に建物をつくる権利が与えられている。その小さく細分して所有されている土地のほとんどは生活を営む住宅なので、ライフサイクルに対応して建物は増改築が行われ変化する。だから、東京の建物の寿命は26年しかない。ヨーロッパの都市は人間の生命スパンを超えて存在するため、都市空間は実体として認識され、人には変化は感じられないのであるが、東京では数十年もすると風景を構成する建物はほとんどすべて変化してしまう。数十年の時間を経た東京は、同じ場所であってもそれは幻影のように実体が 感じられない都市なのだ。
私たちが眼前にみる生命体のように変化し続けるこの現代の東京では、このような細分化された土地所有という条件や温暖なアジアモンスーン気候に対応した新しい建築が出現しつつある。それは、巨視的に見れば多数の個別の意思が参加しながら全体としての最適解を得る見えないシステムが存在しているようにも思える。東京では、これまで出現したことのない、遍在する弱い力(徹底した民主主義)による新しい都市風景が生まれようとしている。
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